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経営を強くする会計と数字の見方:介護事業所経営者が明日から使える実践ガイド

桑原大輔

「今月は先月より売上が上がった。会社の経営は順調だ」

そう考えていたのに、気づけば手元の現金が減っている。
銀行から融資を断られた。
税理士からは「キャッシュフローが厳しい」と言われる。

なぜ、売上が増えているのに経営が苦しいのか?

その答えは、「会計数字の見方」にあります。

本記事では、会計を「経営戦略の武器」に変えるための実践的な数字の見方を、介護事業所経営者の視点で解説します。

明日からすぐ使える具体的な方法をお伝えします。

Contents
  1. なぜ経営者は数字を見なければならないのか
  2. 経営者が押さえるべき3つの財務諸表
  3. 明日から使える5つの重要経営指標
  4. 数字の「見える化」実践ガイド
  5. 経営判断に数字を活かす5つの実践シーン
  6. 税理士を「経営参謀」に変える5つの質問
  7. 経営者が陥る3つの「数字の落とし穴」
  8. まとめ:数字は経営者の「羅針盤」

なぜ経営者は数字を見なければならないのか

数字をみることは経営者にしかできない

会社経営において、数字を無視することは「目隠しをして車を運転する」ようなものです。

実際、中小企業の管理会計(経営判断のための会計)導入率と赤字経営率には明確な相関関係があります。

数字を経営に活用していない企業ほど、赤字に陥るリスクが高いのです。

数字を見ない経営者に起こりがちな3つの失敗

  1. 売上は増えているのに、利益が減っている
    • 売上至上主義に陥り、粗利(売上総利益)を無視した値下げで受注を増やした結果、忙しくなっただけで儲けが出ない
  2. 黒字なのに倒産する(黒字倒産)
    • 損益計算書では利益が出ているのに、売掛金の回収遅延や過剰な設備投資で手元の現金が枯渇。2020年の倒産企業の約半数が黒字倒産という現実
  3. 資金繰りに追われる日々
    • 1ヶ月先、3ヶ月先の資金需要を把握していないため、いつも「今月の支払いが…」と頭を悩ませる

数字を活かす経営者の強み

一方、数字に強い経営者は以下のような特徴があります。

  • 現状と目標が明確:スタート地点とゴールが見えているから、効率的に進める
  • 損得勘定が得意:売上に対応する費用を的確に捉え、真の利益を把握している
  • 経営指標を使いこなす:自社の強み・弱みを客観的に把握し、改善策を打てる

介護事業所を経営するあなたも、数字を味方につければ、「補助金を活かした設備投資」「適正な人員配置」「サービス拡充のタイミング」などを自信を持って判断できるようになります。

経営者が押さえるべき3つの財務諸表

まず、会計の基本である「財務三表」を押さえましょう。難しく考える必要はありません。それぞれが答えてくれる質問はシンプルです。

1. 損益計算書(P/L):「儲かっているか?」

損益計算書が教えてくれること

  • 一定期間(通常1年間または1ヶ月)の売上と費用、そこから生まれた利益

経営者が見るべき3つのポイント

  1. 売上総利益(粗利)
    • 計算式:売上高 − 売上原価
    • 意味:本業でどれだけ稼ぐ力があるか
    • 介護事業の場合、介護報酬から直接的なサービス提供コスト(人件費の一部、消耗品費など)を引いた金額
  2. 営業利益
    • 計算式:売上総利益 − 販売費及び一般管理費
    • 意味:本業の実力。販管費(家賃、広告費、事務員給与など)を差し引いた後の利益
  3. 経常利益
    • 計算式:営業利益 + 営業外収益 − 営業外費用
    • 意味:通常の事業活動での利益。借入金の利息などを含めた「普段の稼ぐ力」

売上だけを見て「今月は好調だ」と判断するのは危険です。

売上が増えても、それ以上に人件費や経費が増えていれば、利益は減ります。
企業が生き延びるために必要なのは売上ではなく、利益です。

2. 貸借対照表(B/S):「財務は健全か?」

貸借対照表が教えてくれること

  • ある時点(通常は決算日)での会社の財産状況
  • 「資産」「負債」「純資産」のバランス

経営者が見るべき2つのポイント

  1. 流動比率
    • 計算式:流動資産 ÷ 流動負債 × 100
    • 意味:短期的な支払能力。1年以内に現金化できる資産で、1年以内に支払うべき負債をカバーできるか
    • 目安:200%以上なら極めて安全、100%を下回ると危険信号
  2. 自己資本比率
    • 計算式:純資産 ÷(純資産 + 負債)× 100
    • 意味:会社の財務的な安定性。借金に頼らず自己資金でどれだけ経営できているか
    • 目安:中小企業では15%程度が標準

3. キャッシュフロー計算書(C/F):「お金は回っているか?」

キャッシュフロー計算書が教えてくれること

  • 一定期間のお金の出入り(現金の流れ)

経営者が見るべき3つの区分

  1. 営業キャッシュフロー
    • 本業の営業活動で稼いだ現金
  2. 投資キャッシュフロー
    • 設備投資や資産売却によるお金の動き
  3. 財務キャッシュフロー
    • 借入や返済によるお金の動き

健全な経営の目安

営業キャッシュフローがプラスで、その範囲内で設備投資や借入返済ができている状態が理想です。逆に、営業キャッシュフローがマイナスで、借入や資産売却で補っている状態は黄色信号です。

黒字倒産を防ぐ最重要ポイント

損益計算書では黒字でも、売掛金の回収が遅れたり、在庫を抱えすぎたり、設備投資にお金を使いすぎると、手元の現金が不足します。これが「黒字倒産」のメカニズムです。

利益の増加 = キャッシュの増加ではありません。この認識のズレが、黒字倒産を引き起こす最大の要因です。

明日から使える5つの重要経営指標

財務諸表の基本を押さえたら、次は実践で使える経営指標(KPI)を見ていきましょう。

1. 労働分配率:人件費は適正か?

計算式

労働分配率 = 人件費 ÷ 付加価値額 × 100
※付加価値額 = 売上高 − 外部購入価値(材料費、外注費など)

目安
- 大企業:50%
- 中小企業:70〜80%

介護事業での活用法
介護事業は人件費が経費の大部分を占めます。労働分配率が80%を大きく超えると、人件費が経営を圧迫している可能性があります。逆に低すぎる場合は、従業員への報酬が適正でなく、離職リスクが高まります。

新しいスタッフを採用する際、「この人件費増で労働分配率がどう変わるか」をシミュレーションすることで、適正な人員配置を判断できます。

2. 損益分岐点売上高:最低いくら売れば赤字にならないか?

計算式
損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 限界利益率
限界利益率 = 限界利益 ÷ 売上高
限界利益 = 売上高 − 変動費

介護事業での活用法
– 固定費:家賃、正社員の基本給、リース料など(売上に関係なく発生する費用)
– 変動費:非常勤スタッフの給与、消耗品費など(売上に比例して変動する費用)

たとえば、月の固定費が300万円、限界利益率が40%の場合、

損益分岐点売上高 = 300万円 ÷ 0.4 = 750万円

つまり、月750万円の売上があれば損益トントン。これを下回ると赤字、上回れば黒字です。

経営判断への活用
新規サービスを立ち上げる際、「損益分岐点の売上を達成するには利用者何名が必要か」を逆算することで、事業の実現可能性を判断できます。

3. ROI(投資収益率):投資は正しかったか?

計算式
ROI(%)= 利益金額 ÷ 投資金額 × 100

目安
– ROI 0%以上:投資額に対して利益が出ている(損益分岐点)
– ROI 100%以上:投資額と同額以上の利益が出ている(理想)

介護事業での活用例
新しい送迎車を300万円で購入し、それにより年間120万円の利益増が見込まれる場合、
ROI = 120万円 ÷ 300万円 × 100 = 40%

この場合、約2.5年で投資回収できる計算になります。複数の投資案件を比較する際、ROIが高い方を優先することで、限られた資金を効率的に活用できます。

4. 売上高営業利益率:本業の稼ぐ力はどれくらいか?

計算式
売上高営業利益率 = 営業利益 ÷ 売上高 × 100

介護事業での目安
業種により大きく異なりますが、中小企業では5〜10%が一般的な目標値です。

経営判断への活用
この比率が年々低下している場合、「売上は増えているが経費の増加がそれを上回っている」可能性があります。人件費、広告費、家賃などのコスト構造を見直すサインです。

5. 総資本回転率:資産は効率的に使えているか?

計算式
総資本回転率 = 売上高 ÷ 総資産

意味
会社の資産(現金、設備、車両など)を使って、どれだけ効率的に売上を生み出しているか。回転率が高いほど、少ない資産で多くの売上を作れている状態です。

介護事業での活用法
新しい設備や車両を購入する前に、「この投資で総資本回転率がどう変わるか」をシミュレーション。資産が増えても売上が比例して増えなければ、効率が悪化します。

数字の「見える化」実践ガイド

経営指標を計算しても、それを日常的に確認できなければ意味がありません。ここでは、中小企業でも実践できる「数字の見える化」手法を紹介します。

経営ダッシュボードとは

経営ダッシュボードとは、経営判断に必要なデータを一箇所に集め、視覚的にわかりやすく表示したものです。車のダッシュボードのように、速度(売上)、燃料(キャッシュ)、警告灯(異常値)を一目で把握できる仕組みです。

ダッシュボードのメリット

  1. 瞬時に状況把握:数字を表ではなくグラフで見ることで、傾向や異常値に即座に気づける
  2. リアルタイム更新:常に最新情報で経営判断できる
  3. チームでの共有:経営陣や管理職が同じ数字を見ることで、課題認識を共有できる

介護事業所向け経営ダッシュボードの作り方(Excel活用)

ステップ1:表示する指標を決める

介護事業所であれば、以下の指標を最低限押さえましょう。

  • 月次売上高(前年同月比)
  • 営業利益・営業利益率
  • 労働分配率
  • 現金残高・キャッシュフロー
  • 利用者数・稼働率
  • 損益分岐点達成率

ステップ2:Excelで簡易ダッシュボードを作る

Excel 2020以降(またはOffice 365)であれば、Power QueryやPower Pivotという機能を使って、自動更新されるダッシュボードを作成できます。

初心者向け:ピボットテーブルとグラフの活用

  1. 会計ソフトから月次データをCSV形式でエクスポート
  2. Excelに取り込み、ピボットテーブルで集計
  3. ピボットグラフで視覚化(折れ線グラフ、棒グラフなど)
  4. 1枚のシートに重要指標のグラフをまとめる

ポイント

  • グラフは3〜5個に絞る(情報過多は逆効果)
  • 色を使って「良い状態=緑」「警告=黄色」「危険=赤」と視覚的に判断できるようにする
  • 毎月更新する仕組みを作る(データを上書きすれば自動的にグラフも更新される設計)

ステップ3:月次で振り返る習慣をつくる

ダッシュボードは作っただけでは意味がありません。月初(または月末)に必ず確認する習慣をつけましょう。

  • 経営者自身が毎月チェック
  • 管理職と共有し、課題を議論
  • 異常値があれば、その原因を深掘り

予実管理:計画と実績のギャップを埋める

予実管理とは 予算(計画)と実績を比較し、そのギャップを分析・改善する手法です。

やり方

  1. 年度初めに月次の売上・費用の予算を立てる
  2. 毎月、実績と予算を比較
  3. 差異が大きい項目について原因を分析
  4. 次月以降の行動計画に反映

介護事業所での具体例

  • 予算:月間売上目標 1,000万円
  • 実績:950万円(−50万円)
  • 原因分析:新規利用者獲得が計画より2名少なかった
  • 改善策:ケアマネジャーへの営業活動を強化、体験利用キャンペーンを実施

経営判断に数字を活かす5つの実践シーン

ここからは、介護事業所経営者が日常的に直面する場面で、どのように数字を活用するかを具体的に解説します。

シーン1:新規サービスを始めるべきか判断する

状況 「訪問介護サービスを新たに始めたいが、投資に見合うリターンがあるか不安」

数字の活用法

  1. 初期投資額を算出:車両購入、人材採用・研修費用、事務所改装費など
  2. 月次の売上・費用を予測:サービス単価 × 想定利用者数、人件費、車両維持費など
  3. 損益分岐点を計算:最低何名の利用者が必要か
  4. ROIを計算:何年で投資回収できるか

判断基準

  • 損益分岐点の利用者数が現実的に達成可能か
  • ROI 100%以上(投資回収期間2年以内)を目指せるか
  • 既存事業のキャッシュフローに悪影響がないか

シーン2:人材を採用すべきか判断する

状況 「利用者が増えてきて現場が忙しい。スタッフを1名増員すべきか悩んでいる」

数字の活用法

  1. 増員後の人件費増加額を算出:月給 + 社会保険料 + 福利厚生費
  2. 労働分配率をシミュレーション:増員後も70〜80%の範囲内に収まるか
  3. 増員による売上増を予測:スタッフ増により受け入れ可能な利用者数は何名増えるか
  4. 増収と増コストを比較:利益が増えるか、減るか

判断基準

  • 増員により利益が増加する(労働分配率が適正範囲内)
  • 一時的な繁忙ではなく、継続的な需要が見込める

シーン3:値上げをすべきか判断する

状況 「コストが上がっているので、自費サービスの料金を値上げしたいが、利用者離れが心配」

数字の活用法

  1. 現在の粗利率を確認:(売上 − 売上原価)÷ 売上 × 100
  2. 値上げ後の粗利率をシミュレーション
  3. 損益分岐点を再計算:値上げ後、何名の利用者で採算が取れるか
  4. 利用者離れのシナリオ分析:値上げで利用者が10%減っても利益は維持できるか

判断基準

  • 値上げ後も市場相場の範囲内か
  • 利用者が多少減っても利益が増える試算になるか
  • サービス品質向上とセットで説明できるか

シーン4:設備投資のタイミングを判断する

状況 「送迎車が古くなってきた。買い替えか修理かで悩んでいる」

数字の活用法

  1. 修理費用 vs 新車購入費用を比較
  2. 新車購入の場合のROIを計算:燃費改善、修理費用削減などによる年間コスト削減額 ÷ 購入価格
  3. キャッシュフロー への影響を確認:手元現金が減っても事業運営に支障がないか
  4. リース vs 購入の比較:資金繰りへの影響を考慮

判断基準

  • ROI 0%以上(長期的にコスト削減または収益増になる)
  • 現金残高に余裕がある、または低金利で融資を受けられる

シーン5:借入のタイミングを判断する

状況 「事業拡大のために借入を検討しているが、返済できるか不安」

数字の活用法

  1. 資金繰り表を作成:今後6ヶ月〜1年の現金の出入りを予測
  2. 月次返済額を試算:借入額、金利、返済期間から月々の返済額を計算
  3. 営業キャッシュフローと比較:毎月の本業の稼ぎで返済可能か
  4. 自己資本比率への影響を確認:借入後も15%以上を維持できるか

判断基準

  • 営業キャッシュフローが返済額を上回る
  • 資金繰り表で見て、今後1年間現金不足にならない
  • 借入の使途が明確(運転資金の補填ではなく、成長投資)

税理士を「経営参謀」に変える5つの質問

多くの中小企業経営者が税理士と顧問契約していますが、「記帳代行と決算申告だけ」で終わっているケースが少なくありません。

実は、中小企業(従業員5人以下)の経営者が「最も有効なアドバイスをもらえた相手」として挙げるのは、税理士・公認会計士が24.5%でトップです。税理士は、活用次第で経営の強力なパートナーになります。

税理士を経営参謀に変える「月次面談で聞くべき5つの質問」

質問1:「今月の利益はどのくらいで、前年同月比でどうですか?」

なぜこの質問が重要か 単に「黒字か赤字か」だけでなく、前年との比較で業績のトレンドを把握できます。

税理士からの回答例 「今月の営業利益は80万円で、前年同月の50万円から60%増加しています。利用者数増とコスト管理の成果が出ています」

次のアクション 好調な要因を分析し、その傾向を継続・強化する施策を検討。または、悪化の兆候があれば早期に対策を打つ。

質問2:「キャッシュフローの状況と、今後3ヶ月の資金繰りはどうですか?」

なぜこの質問が重要か 黒字倒産を防ぐために、現金の流れを常に把握する必要があります。

税理士からの回答例 「今月末の現金残高は500万円。来月は賞与支払いがあるため300万円減少しますが、その後は安定して推移する見込みです」

次のアクション 資金不足の予兆があれば、早めに融資の相談や支払いスケジュールの調整を行う。

質問3:「経営指標から見て、うちの会社の課題はどこですか?」

なぜこの質問が重要か 税理士は多くの企業の数字を見ています。業界平均や他社と比較した客観的な意見をもらえます。

税理士からの回答例 「労働分配率が85%と高めです。人件費が圧迫要因になっているので、サービス単価の見直しか、業務効率化を検討されてはいかがでしょうか」

次のアクション 指摘された課題に対して、具体的な改善策を一緒に考える。

質問4:「今できる節税対策は何かありますか?」

なぜこの質問が重要か 決算間際になってから慌てて節税するのではなく、期中から計画的に対策を打つことで、資金繰りと節税を両立できます。

税理士からの回答例 「設備投資を検討されているなら、今期中に購入すれば即時償却や特別償却が使えます。また、小規模企業共済への加入も節税効果があります」

次のアクション 税理士の提案を踏まえ、事業計画と照らし合わせて実行するか判断。

質問5:「次の成長ステージに向けて、今から準備すべきことは何ですか?」

なぜこの質問が重要か 税理士は、企業の成長過程を数多く見てきています。「従業員20名になったら」「売上1億円を超えたら」といった節目で必要な準備を教えてもらえます。

税理士からの回答例 「従業員が20名を超えると、管理体制の強化が必要です。経理担当者の採用や、会計ソフトのグレードアップを検討してはいかがでしょうか。また、法人税の税率が変わるタイミングでもあります」

次のアクション 成長に伴うリスクや必要な投資を事前に把握し、計画的に準備する。

税理士選びのポイント

もし現在の税理士が「記帳代行だけ」で経営相談に乗ってくれない場合、税理士を変えることも選択肢です。

経営相談に強い税理士の見分け方

  • ホームページに「経営コンサルティング」の実績や事例が具体的に掲載されている
  • 月次面談を重視している(単に試算表を送ってくるだけではない)
  • 同業種(介護・医療・福祉)の顧問実績がある
  • 経営革新等支援機関に認定されている

ただし、全ての税理士が経営コンサルティングに強いわけではありません。実質的に経営支援ができる税理士は全体の約3%と言われています。実績や専門分野をしっかり確認しましょう。

経営者が陥る3つの「数字の落とし穴」

最後に、中小企業経営者がよく陥る「数字の落とし穴」と、その回避法を解説します。

落とし穴1:「黒字倒産」の罠

何が起こるか 損益計算書では利益が出ているのに、手元の現金が不足して倒産する。

なぜ起こるか

  • 売掛金の回収が遅れている(介護報酬の入金は通常2ヶ月後)
  • 過剰な設備投資で現金を使いすぎた
  • 在庫を抱えすぎている(介護事業では消耗品など)
  • 借入金の返済額が大きい

予防策

  1. 資金繰り表を毎月作成する:今後3〜6ヶ月の現金の出入りを予測
  2. キャッシュフロー計算書を確認する:営業キャッシュフローがプラスか常にチェック
  3. 早期回収を心がける:介護報酬の請求ミスがないか、返戻・査定減がないか確認
  4. 借入は計画的に:返済計画を立て、営業キャッシュフローの範囲内で返済できる額に抑える

落とし穴2:「売上至上主義」の危険

何が起こるか 売上は増えているのに、利益が減少し、忙しいだけで儲からない状態に陥る。

なぜ起こるか

  • 「とにかく売上を増やせ」と考え、利益を度外視した値下げで受注を増やす
  • 売上に対応する費用(人件費、経費)の増加を見落とす
  • 売上の増減に一喜一憂し、肝心の利益の増減まで意識が届かない

予防策

  1. 粗利(売上総利益)を常に意識する:売上ではなく粗利を経営目標の中心に据える
  2. 値下げ前にシミュレーションする:値下げで売上が増えても、粗利が減れば意味がない
  3. 費用対効果を検証する:売上を増やすために投じた経費が、それに見合う利益を生んでいるか確認

落とし穴3:「勘と経験」だけの経営判断

何が起こるか 場当たり的な経営判断が続き、会社の競争力が磨かれず、業績が低迷する。

なぜ起こるか

  • 数字を確認せず、「なんとなく調子が良い/悪い」という感覚だけで判断
  • 過去の成功体験にとらわれ、現在の数字を無視する
  • 経営指標を活用せず、客観的な現状把握ができていない

予防策

  1. 月次で必ず数字を確認する習慣をつける:感覚ではなくデータで判断
  2. 経営指標を定点観測する:毎月同じ指標を追うことで、変化の兆候に気づける
  3. 数字に強い参謀をつける:自分が数字に弱いと自覚しているなら、CFO(最高財務責任者)役や経営コンサルタントを活用

まとめ:数字は経営者の「羅針盤」

ここまで、介護事業所経営者が会計と数字を「経営戦略の武器」にするための実践的な方法を解説してきました。

本記事のポイント

  1. 会計数字を無視した経営は、目隠し運転と同じ。数字は経営の現状と課題を教えてくれる羅針盤
  2. 財務三表(P/L、B/S、C/F)を押さえる。それぞれが「儲かっているか」「財務は健全か」「お金は回っているか」を教えてくれる
  3. 5つの重要経営指標を活用する:労働分配率、損益分岐点、ROI、営業利益率、総資本回転率
  4. 数字を「見える化」する:経営ダッシュボードで、常に最新の状況を一目で把握
  5. 日常の経営判断に数字を活かす:新規サービス、採用、値上げ、設備投資、借入など、全ての判断に数字を使う
  6. 税理士を経営参謀にする:月次面談で5つの質問をして、記帳代行係から戦略パートナーに変える
  7. 3つの落とし穴を避ける:黒字倒産、売上至上主義、勘と経験だけの判断

今日から始められる3つのアクション

  1. まずは月次の試算表を毎月確認する習慣をつける
    • 税理士に「毎月5日までに試算表を送ってください」と依頼
    • 売上、粗利、営業利益、現金残高の4つだけでもチェック
  2. Excelで簡易的な経営ダッシュボードを作ってみる
    • 売上推移のグラフだけでも作成
    • 慣れてきたら、労働分配率や損益分岐点達成率も追加
  3. 次回の税理士面談で、本記事の「5つの質問」を実際に聞いてみる
    • 税理士の反応を見て、経営相談のレベルを確認
    • 必要なら、経営相談に強い税理士への変更も検討

会計と数字は、決して難しいものではありません。

介護事業所を経営するあなたには、すでに実務経験があります。その経験に、本記事で紹介した「数字の見方」を加えることで、経営判断の精度は飛躍的に向上します。

補助金を活用した設備投資、適正な人員配置、次の拠点出店のタイミング——これらすべてを、「勘と経験」ではなく「データに基づいた自信を持った判断」で進められるようになります。

財務や会計を「経営戦略の武器」にして、地域で信頼される介護事業を一緒に育てていきましょう。

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