【助成金】開業時から使える助成金一覧
「開業には多額の資金がかかるため、使える助成金はすべて知っておきたい」
「キャリアアップ助成金などの名前は聞くが、自分の事業所でどう使えるのかわからない」
障害福祉事業の開業に向けて準備を進める経営者の方々は、このような悩みを抱えているのではないでしょうか。
結論として、障害福祉事業と助成金の相性は極めて良いといえます。
開業初期の段階から「キャリアアップ助成金」や「人材確保等支援助成金」を正しく事業計画に組み込むことで、人材採用コストを大幅に削減し、強固な経営基盤を作ることができるからです。
この記事では、障害福祉事業を開業する際に使える助成金について詳しく解説します。
なぜ福祉事業の開業時に「助成金・補助金」の活用が必須なのか?
福祉事業を始めるにあたって、資金繰りの悩みは多くの経営者が直面する問題です。
ここでは、なぜ開業の初期段階から助成金や補助金を取り入れるべきなのかの3つの理由について解説します。
福祉事業は人件費率が極めて高く、採用・育成コストが開業初期のキャッシュフローを圧迫しやすいから
障害福祉事業の立ち上げを成功させるためには、助成金を活用して人件費の負担を補う工夫が欠かせません。
その理由は、この業界が「人が人にサービスを提供する」という労働集約型ビジネスの宿命を背負っており、開業当初から多くのスタッフを雇い続ける必要があるからです。
たとえば、就労継続支援の事業所を新しくオープンする場合、行政のルールによって利用者の人数に対するスタッフの配置基準が厳格に決められています。
たとえ開業直後で利用者が少なく、売上がほとんど立たない時期であっても、サービス管理責任者などの有資格者を必ず配置しておかなければなりません。
つまり、収入が少ない状態でも人件費という大きな固定費が毎月発生し続けるという厳しさがあります。これが、開業初期の会社の現金(キャッシュフロー)を激しく圧迫する原因となります。
だからこそ、一番苦しい時期の資金繰りを乗り越えるために、助成金の活用が求められるのです。
助成金は返済不要の「雑収入」となり、開業初期の貴重な運転資金として機能するから
助成金をもらうことは、開業して間もない事業所にとって、大切な手元資金を確保する大きな役割を果たします。
なぜなら、銀行や金融機関から借り入れる融資とは異なり、条件を満たして国から受け取った助成金は返済の義務がないからです。
たとえば、後ほど紹介するキャリアアップ助成金を利用して事業所に80万円が振り込まれたとします。
このお金は後から返す必要がないため、そのまま会社の「雑収入」として帳簿に計上され、自由に使うことができます。
余裕ができたお金を使って、優秀なスタッフを募集するための採用原資にすることが可能です。
このように、返済不要の資金を事業の成長のために再投資できるサイクルが生まれる点は、経営を軌道に乗せるうえで非常に有利に働きます。
助成金の受給要件を満たす労務管理が、結果的に「人が辞めない強い組織」を作るから
助成金の申請に向けた準備を進めること自体が、スタッフが長く定着する強い組織づくりにつながります。
その理由は、助成金をもらうためには、国が定めた厳しい労働ルールをしっかりと守り、ホワイトな労働環境を構築する必要があるからです。
たとえば、助成金を申請する前提として、就業規則を正しく作成して労働基準監督署に届け出たり、タイムカードで労働時間を正確に記録したりすることが求められます。
最初はこうしたルール遵守の作業が面倒に感じるかもしれません。しかし、残業代を適正に支払い、有給休暇を取りやすい環境を整えることは、そのまま従業員にとっての働きやすさに直結します。
結果として、「この会社は自分たちを大切にしてくれる」という安心感が生まれ、離職率の低下という大きなメリットを得られるわけです。
【人材確保・定着】開業時に最も使いやすい「キャリアアップ助成金(正社員化コース)」

数ある制度のなかでも、福祉業界の事業所で特によく利用されている王道の助成金がキャリアアップ助成金です。
この制度がなぜ使いやすく、どのような条件があるのかを見ていきましょう。
非正規雇用のスタッフを実務を経て正社員化するだけで、1人あたり最大80万円(中小企業の場合)が支給されるから
キャリアアップ助成金(正社員化コース)は、障害福祉事業を開業する際に最もおすすめできる頼もしい制度です。
なぜなら、未経験者をまずはパートや契約社員として雇い、適性を見てから正社員にするという、福祉業界の定番の採用フローと非常に相性が良いからです。
たとえば、未経験のスタッフを時給制のパートとして採用し、まずは半年間一緒に働いて現場の業務に慣れてもらいます。
その後、本人の仕事ぶりや利用者との相性を確認したうえで正社員に転換した場合、中小企業であれば1人あたり最大80万円が支給されます。
最初から正社員として雇うとミスマッチが起きた際のリスクが大きいですが、この制度を使えばそのリスクを減らしつつ、育成にかかったコストを助成金でカバーすることが可能です。
申請には「転換前のアクション(計画届提出)」と「転換時の賃金3%以上アップ」が絶対条件となるから
キャリアアップ助成金を活用するためには、事前の計画提出と給与の引き上げというルールを確実に守らなければなりません。
その理由は、この制度があくまで「従業員の待遇を良くしようと努力する企業を支援する」ものであり、後から条件を取り繕うことは許されない仕組みだからです。
たとえば、「パートスタッフの働きが良かったので、すでに正社員にした。だから助成金をください」という事後報告は一切通用しません。
正社員として雇用する前日までに、ハローワークなどへ「キャリアアップ計画」を提出しておく必要があります。
さらに、正社員への転換時に基本給などを以前より3%以上アップさせることが絶対条件となります。
そのため、税理士や専門家と一緒に、いつ誰を正社員にするのかという綿密な計画を練っておく必要性があります。
福祉業界特有の「処遇改善加算」と組み合わせることで、法人の手出しを最小限に抑えながら昇給を実現できるから
給与を3%以上アップさせるという条件は重く感じるかもしれませんが、工夫次第で事業所の負担を軽減しながらクリアできます。
なぜなら、障害福祉事業には、スタッフの給与を上げるための原資として国から支払われる「処遇改善加算」という特有の仕組みが存在するからです。
たとえば、パートスタッフを正社員にする際、会社の身銭を削って基本給を無理に引き上げるのは大変です。
そこで、処遇改善加算から支給される手当を増額するという財務的テクニックを活用します。これにより、トータルで3%以上の賃金アップという要件を満たしながら、法人の手出しを最小限に抑えることができます。
加算を上手く活用して制度の条件をクリアすることは、経営を安定させるための賢い選択といえるでしょう。
【採用力強化】人手不足を解消する「人材確保等支援助成金」

従業員が長く働き続けられるような魅力的な職場を作るための支援として、人材確保等支援助成金があります。
ここでは、定着の仕組みづくりに役立つコースを紹介します。
評価・研修制度等の導入で離職率を低下させれば支給される「雇用管理制度・雇用環境整備助成コース」があるから
従業員が辞めない仕組みを新しく作りたい事業所には、「雇用管理制度・雇用環境整備助成コース」の活用が効果的です。
その理由は、新しく雇用管理の制度などを導入し、その結果として離職率の低下目標を達成した場合に受給できる仕組みとなっているからです。
たとえば、スタッフの能力や経験を正当に評価する人事評価制度や、定期的な健康診断やメンタルヘルスケアといった健康づくり制度を事業所に導入します。
これらの仕組みを取り入れることで、1制度の導入につき20万円(条件を満たせば最大80万円など)の助成金を受け取ることができます。
働きがいを高め、不満を解消する制度を整えることが、そのまま会社の利益につながります。
外国人労働者特有の就労環境を整備することで受給できる「外国人労働者就労環境整備助成コース」があるから
近年増えている外国人のスタッフを採用する事業所に向けて、「外国人労働者就労環境整備助成コース」という専用の支援も用意されています。
なぜなら、言葉や文化が異なる外国人労働者が日本の職場で長く働き続けるためには、日本人スタッフとは異なる特有の環境整備が必要不可欠だからです。
たとえば、新しく外国人スタッフを受け入れる際、仕事のルールをまとめた就業規則を多言語化したり、外国人人材の悩みを聞く「雇用労務責任者」を選任したりします。
このような就労環境の整備を行い、外国人人材の定着を図る事業者に対して、1制度の導入につき20万円(上限80万円)の助成金が支給されます。
従業員にとって魅力的な「働きやすい職場環境」を整備することが、結果として助成金という形で法人に還元される仕組みだから
これらの人材確保等支援助成金に共通する本質は、「働きやすい職場環境の整備」に対してお金が支払われるという点にあります。
その理由は、これらの助成金が求人広告を出すといった「採用活動そのもの」を支援するのではなく、入社した人が辞めないための「定着する仕組みづくり」を評価するものだからです。
たとえば、スタッフの身体的な負担を減らすために業務負担軽減機器を導入して労働環境を向上させたとします。
すると、従業員にとって魅力的な職場になり、離職率が下がることで無駄な採用コストが浮きます。
さらに、機器の導入費用の一部(最大150万円など)が助成金という形で法人に還元される仕組みです。スタッフへの投資が会社に戻ってくるという好循環を生み出せます。
【設備投資・生産性向上】IT導入や職場環境改善に使える「補助金」

人を雇うための助成金とは別に、システムや機械などの設備投資に使えるのが「補助金」です。
事業の生産性を高めるための補助金について解説します。
「デジタル化・AI導入補助金」を活用すれば、国保連請求ソフトや勤怠管理システムの導入費用が補助されるから
事務作業の負担を大きく減らすためには、「デジタル化・AI導入補助金(旧:IT導入補助金)」の活用が有効な手段となります。
なぜなら、「インボイス枠(インボイス対応類型)」などを利用することで、高額になりがちなシステムの初期費用を国から支援してもらえるからです。
たとえば、福祉事業では毎月の利用者の記録や、国保連への報酬請求といった膨大なバックオフィス業務が発生します。
これらを効率化するために、請求機能がついたソフトや、スタッフの労働時間を正確に記録できる勤怠管理システムを新しく導入するとします。
このとき補助金を活用すれば、導入にかかる費用の一部をカバーできます。
初期費用をしっかりと抑えつつ、スタッフが事務作業から解放されて現場の支援に集中できる環境を作れるのです。
ただし、申請には締切日が設けられているので、いつでも好きなタイミングで使える訳ではありません。また、交付決定後に購入したものでなければ対象にならないため、その点は注意しましょう。
補助金は助成金と異なり「採択制」であるため、専門家と連携した生産性向上のための事業計画策定が不可欠
補助金を受け取るためには、専門家と協力して説得力のある事業計画を作ることが欠かせません。
なぜなら、一定の要件を満たせば原則としてもらえる助成金とは異なり、補助金は予算の範囲内で優れた取り組みを選ぶ審査の仕組みになっているからです。
たとえば、IT導入補助金を申請する際に、ただ「便利なシステムが欲しい」と要望を書くだけでは審査を通過できません。
現在の業務にどのような無駄があり、そのシステムを導入することでバックオフィス業務がどう改善し、生産性がどれだけ上がるのかというストーリーを計画書に落とし込む必要があります。
そのため、採択を勝ち取るための事業計画策定には、専門家と連携することが不可欠です。
助成金・補助金申請で失敗しないための「財務と労務の注意点」

助成金や補助金は経営の大きな助けとなりますが、気をつけなければならない注意点もあります。
資金繰りや労務管理におけるリスクについてお伝えします。
助成金・補助金は原則「後払い」であるため、先に持ち出しとなる経費は創業融資で確保しておく必要があるから
助成金や補助金を利用する際に最も注意すべき点は、つなぎの資金を創業融資などでしっかりと確保しておくことです。
その理由は、これらの制度は原則として「後払い」であり、先に対象となる取り組みを行って自社でお金を立て替える必要があるからです。
たとえば、「助成金が出るから、今は手元にお金がなくても大丈夫」という経営者の勘違いは非常に危険です。
キャリアアップ助成金なら、正社員になってから半年間は自社で高い給与を払い続けなければいけません。
そのため、日本政策金融公庫などを利用し、先に持ち出しとなる経費の分を含めた運転資金を確保しておく重要性を説いておきます。
「TKC社会福祉法人経営指標(TKC-SBAST)」等を参考に、助成金に依存しない適正な人件費率の事業計画を立てるべきだから
助成金をもらうことばかりを前提とせず、本業の収益だけで成り立つ堅実な事業計画を立てることが大前提です。
なぜなら、助成金はあくまで一時的なボーナスであり、制度の変更によって来年も確実にもらえるとは限らないからです。
たとえば、事業計画を立てる際には、プロの視点として「TKC社会福祉法人経営指標(TKC-SBAST)」(TKC会員事務所のみ閲覧可能)のような全国の黒字法人のデータを利用します。
これらの適正なデータを参考にしながら、自社の人件費率が高すぎないかを見極めるべきです。
タイムカードの打刻漏れや残業代の未払いなど、わずかな労務違反でも不支給となるから
助成金をもらうためには、日頃から正しい労務管理を徹底し、クリーンな体制を維持することが絶対に必要です。
その理由は、助成金の審査の際には厳しい労務監査が行われ、少しでも法律違反があると一切支給されなくなるからです。
失敗を防ぐためにも、開業時から税理士や社労士などの専門家と連携し、誰が見ても問題のないクリーンな体制を作っておくことが重要です。
まとめ
障害福祉事業の開業時において、助成金や補助金は初期費用を減らすために役立ちます。
ただし、事前の計画提出や正しい労務管理、「後払い」に耐えられる資金繰りの準備が欠かせません。助成金をもらうことだけを目的とせず、本業でしっかりと利益を出せる事業計画を立てることが大切です。
そのうえで制度を上手く活用し、スタッフが長く働きやすい環境を整えれば、結果としてサービスの質も上がり、経営の安定につながります。
開業という大切なスタートを成功させるためにも、事前の準備をしっかり行い、助成金に頼りすぎない堅実な経営を目指していきましょう。

