【実務】障害福祉・介護事業の法人設立・法人格変更に伴う「事業指定」の申請方法と注意点
障害福祉や介護事業は、法人設立の手続きと併せて、行政からの「指定」が必須です。
また、法人格の変更(組織変更)をする際に手続きの順序を間違えると指定が切れ、数ヶ月間売上がゼロになるリスクがあります。
本記事では、新規指定申請の標準的なスケジュールと、法人格変更時に売上を止めずに指定を引き継ぐ(再取得する)ための実務ポイントを解説します。
また、当事務所の拠点である相模原市独自の申請ルールについても触れていますので、近隣で開業予定の方はぜひ参考にしてください。
障害福祉・介護事業では指定は必須
まずは、障害福祉・介護事業を開業する際に必須の「指定」について解説します。
指定とは「介護報酬・給付費」を請求するための必須ライセンス
障害福祉・介護事業は、指定を受けなければ売上の公費負担分が入金されず、事実上の事業運営は不可能です。
障害福祉・介護保険制度は、利用者が費用の1割(または所得に応じた負担額)を負担し、残りの7〜9割以上を行政(国保連)が事業者に支払う「代理受領」の仕組みだからです。
この公費(介護給付費・訓練等給付費)を受け取るためには、法律に基づき行政から「指定事業者」として認められる必要があります。指定がない状態でのサービス提供は、全額を利用者負担とするか、ボランティアで行うしかなくなります。
例えば、放課後等デイサービスを運営する場合、指定を持っていれば1回あたり約1万円の報酬のうち、利用者は約1,000円(または0円)を支払うだけで済みます。しかし、指定がなければ利用者に全額を請求せざるを得ず、現実的に集客は不可能です。
指定は「事業所ごと」「サービスごと」に必要
指定申請は、法人単位で1回行えば終わりではなく、事業所(拠点)ごと、サービス種別ごとにそれぞれ行う必要があります。
指定基準(人員基準・設備基準)は、サービスの種類や拠点ごとに満たすべき要件が異なるからです。行政は、それぞれの事業所が適切な運営体制を持っているかを個別に審査し、異なる「事業所番号(10桁のコード)」を付与します。
例えば、同じ事業所内でヘルパー事業を行う場合でも、高齢者向けの「訪問介護」と、障害者向けの「居宅介護」を行うのであれば、根拠となる法律(介護保険法と障害者総合支援法)が異なるため、それぞれ申請書を提出し、別々の指定を受ける必要があります。
また、A支店とB支店を出す場合も、それぞれで指定申請が必要です。
申請から指定までどれくらいかかる?

ここでは、指定申請から実際に指定されるまでのスケジュールについてご紹介します。
事前協議から指定日まで「標準2ヶ月〜3ヶ月」
一般的に、法人登記が完了してから実際に事業を開始できるまでには、最短でも約2ヶ月〜2.5ヶ月の期間が必要です。
なお、指定申請には、添付書類として「法人の登記簿謄本」が必須となるため、登記完了後でなければ本申請が行えないからです。
一般的な自治体の標準スケジュールは以下の通りです。
1. 事前協議(指定の約2ヶ月前): 図面や人員体制の相談
2. 本申請(指定の前々月末): 書類一式の提出締め切り
3. 審査(約1ヶ月): 行政による審査・実地確認
4. 指定(翌月1日): 事業開始
【相模原市の場合】
相模原市では、一般的な自治体よりも早い段階での手続きが義務付けられています。 指定希望月の「3ヶ月前の末日」までに「平面図事前送付票」及び平面図の提出が必要です。
例えば4月1日に開業したい場合、12月末日までに図面の提出を済ませておく必要があります。ここを過ぎると開業が1ヶ月遅れるため、非常に注意が必要です。
このように自治体によって手続き内容や期間が異なるケースもあるので、注意が必要です。
手順① 事前協議(図面・人員の確認)
物件の賃貸借契約や内装工事を始める前に、必ず図面を持って行政へ事前協議に行ってください。
設備基準の不備は、契約後や工事後では取り返しがつかないケースが多いからです。多くの自治体では、本申請の前に図面確認等の事前協議を必須フローとしています。
相談室には「室内における談話の漏えいを防ぐための間仕切り等」を設ける必要があります。
もし契約後に「パーティションの高さが足りない」「洗面所が基準に合わない」と指摘された場合、高額な追加工事費がかかるリスクがあります。
【相模原市の場合】
前述の通り、相模原市では指定の3ヶ月前までに図面確認を受けるルールになっています。この段階で物件が決まっていないと申請スケジュールに乗らないため、法人設立前から物件探しを先行させる必要があります。
手順② 本申請(書類提出)
指定希望月の「前々月末日」が提出締め切りである自治体が多く、1日の遅れも許されません。
行政の審査期間として標準的に1ヶ月〜1.5ヶ月が確保されているためです。この締め切りに間に合わない、あるいは書類に不備があり受理されなければ、指定日は自動的に翌月にずれ込みます。
4月1日指定を目指す場合、一般的には2月末日が締め切りとなります。
【相模原市の場合】
相模原市においても、本申請書類の提出期限は「指定希望月の2月前の末日」とされています。 なお、相模原市での申請・届出方法は、厚生労働省の「電子申請届出システム」または郵送による受付となっています。
法人格を変更(組織変更)する際のルール

次に、すでに法人として障害福祉・介護事業をしていた会社が法人格を変更する際のルールについて解説します。
法人格が変わると「指定」の効力はなくなる
原則として、法人格が変われば、現在の指定は効力を失い、自動的に引き継ぐことはできません。
指定は「その法人」に対して与えられた許可だからです。法人格が変われば原則として指定はリセットされます。
そのため、株式会社から社会福祉法人へ組織変更する場合や、NPO法人から株式会社へ事業譲渡する場合などは、原則として旧事業者の指定は廃止となります。
スムーズに移行するための「廃止」と「新規」の手続き
一般社団法人から株式会社のように法人格の変更をする場合、旧法人の「廃止届」と新法人の「新規指定申請」を同時に行うことで、事業を承継させます。
自動継続ができないため、形式上は「A(旧)を廃止して、B(新)が新しく始める」という手続きをとる必要があるからです。これは単なる名義変更ではなく、新規申請と同様の書類作成が求められます。
【相模原市の場合】
相模原市では、廃止届の提出期限は「廃止する日の1ヶ月前」です。 したがって、3月31日で廃止して4月1日から新法人で始めるなら、2月末までに「廃止届」と「新規指定申請書」の両方を提出する段取りが必要です。
【例外】「組織変更」や「合併」なら承継できるケース
会社法上の「組織変更」や「吸収合併・分割」を用いる場合に限り、指定の承継が認められる(みなし指定)ケースがあります。
介護保険法や障害者総合支援法には、法人の合併や分割等があった場合の地位の承継に関する規定があるからです。
「合同会社〇〇」を「株式会社〇〇」へ組織変更登記する場合、法人格の同一性が保たれるため、新規指定ではなく「変更届」等の手続きで済むのが一般的です。
相模原市の場合も、変更届の提出が必要です。ただし、ケースによって必要書類が異なるため、必ず事前に市の福祉基盤課へ確認してください。
売上が止まるリスクを回避するスケジュール調整
法人格を変更する場合、新規指定が間に合わず売上が止まるリスクがあります。
ここでは、売上が止まるリスクを回避するスケジュールについて解説します。
X月31日に廃止、翌月1日に指定を受けるのが鉄則
法人移行のスケジュールは、必ず「月末廃止・翌月1日指定」となるよう組んでください。
介護・福祉報酬の多くは月単位で計算され、月途中の指定や廃止では報酬算定に支障が出るからです。
特に「福祉・介護職員処遇改善加算」などは月ごとの計画・実績管理が基本であり、指定期間の連続性が途切れると算定要件を満たせなくなるリスクがあります。
指定日は原則として「毎月1日」です。もし手続きに不備があり「4月1日」の指定を逃すと、たとえ1日の遅れであっても、「4月2日」から認められることはなく、指定日は翌月の「5月1日」まで先送りされます。
これにより、4月の1ヶ月間は「無指定(営業不可)」の状態となり、4月分の売上がゼロになるだけでなく、従業員への給与支払いに支障をきたす大惨事になりかねません。
利用者・スタッフへの説明と契約の巻き直しが必要
指定の切り替えに合わせて、利用者との再契約および重要事項説明、スタッフの転籍手続きが必須です。
運営法人が変わるということは、利用者・スタッフにとっては契約の相手方が変わることを意味します。実地指導(運営指導)において、新しい法人名義での契約書が存在しない状態でサービス提供を行っていた場合、報酬返還の対象となる重大な「運営基準違反」とみなされます。
4月1日から新法人になるのであれば、3月中に利用者へ事情を説明し、新法人名義の重要事項説明書・契約書に署名をもらっておく必要があります。
指定申請する際の注意点3つ

指定は書類さえ出せば通るわけではありません。
ここでは、指定申請する際に気をつけるポイントを解説します。
①人員基準の「常勤・専従」要件の勘違い
各サービスの人員基準には「専らその職務に従事する常勤の管理者」といった要件があります。 よくある失敗が、「代表取締役だから何でも兼務できるだろう」という思い込みです。
例えば、代表者がすでに「A事業所」で常勤の管理者として登録されている場合、新たに開設する「B事業所」でも常勤管理者として登録することは、物理的に不可能です。
また、管理者とサービス管理責任者の兼務は認められるケースが多いですが、「管理者」と「直接処遇職員(現場スタッフ)」の兼務は、サービス種類や自治体によって認められない場合があります。
②定款の「事業目的」の文言ミス
定款の事業目的には、必ず法律に基づいた正確な文言を記載してください。
行政は定款を見て、その法人が福祉事業を行う権限を持っているかを確認します。「介護事業」「福祉サービス」といった曖昧な表現では受理されず、定款変更(登録免許税等のコスト)が必要になります。
厚生労働省令等の名称に基づき、障害福祉事業の場合は、以下のような根拠法を明記した文言が必要です。
・障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく障害福祉サービス事業
もし、放課後等デイサービスや児童発達支援を行う可能性がある場合は、上記の文言だけでは不十分です。これらは法律が異なる(児童福祉法)からです。下記のように以下の2行をセットで記載するのが一般的です。
・障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく障害福祉サービス事業
・児童福祉法に基づく障害児通所支援事業
③BCP(業務継続計画)や感染症対策の未整備
障害福祉・介護事業の新規開設をする場合、指定申請の段階でBCP(業務継続計画)や感染症対策の指針が整備されている必要があります。
指定基準の改正により、2024年4月以降すべての障害福祉サービス事業者に対し、感染症や非常災害発生時における「業務継続計画(BCP)」の策定が義務付けられたからです。
申請書類の一部として、または実地確認の際に、BCPや感染症対策委員会の指針等の提示を求められることがあります。古い雛形を使い回していると、この規定が抜けており不備となる可能性があります。
【Q&A】指定申請・法人変更に関するよくある質問

最後に、指定申請に関するよくある質問をまとめました。
Q.指定申請中にサービス提供を開始しても、後から請求できますか?
A.できません。指定日前のサービス提供分は、全額利用者の自己負担となります。
介護給付費等の請求権は、指定を受けた日(指定効力発生日)以降のサービス提供分に対してのみ発生するためです。
Q.法人格を変更して指定を取り直すと、事業所番号は変わりますか?
A.廃止・新規の手続きをとる場合は、新しい事業所番号が付与されます。
別法人として新たに指定を受ける形になるためです。これに伴い、LIFE(科学的介護情報システム)のID再取得や、利用者への受給者証の更新案内も必要になります。
まとめ|指定申請は「段取り」が9割
障害福祉・介護事業を開業する場合、法人登記を行う前段階から、福祉・介護事業に強い専門家へ相談することを強くおすすめします。
特に相模原市の場合、指定の「3ヶ月前」に図面提出というマイルストーンがあります。 「法人登記の完了時期」「物件契約のタイミング」「処遇改善加算の計画書提出」などが複雑に絡み合うため、一つの遅れが「開業の1ヶ月遅れ(=1ヶ月分の固定費損失)」に直結します。
税理士法人 八木会計は相模原市に拠点を置き、地元の指定申請ルールやスケジュール感に精通しています。また、相模原市だけではなく、近隣自治体の指定申請にも対応可能です。
法人設立・組織変更から指定申請、その後のサポートもしておりますので、法人設立・組織変更をお考えの方はぜひお気軽にご相談ください。

