【失敗回避】開業初年度で失敗する5つのパターン|資金ショート・集患不足を防ぐ

澤奈央子

クリニックの開業を検討している先生のなかには、「失敗したらどうしよう」という不安を抱えながら準備を進めている方も多いのではないでしょうか。

資金ショートや集患不足など、開業初年度に経営が行き詰まる失敗例は決して珍しくありません。

本記事では、クリニック(入院設備を持たない無床診療所)の開業で陥りやすい失敗パターンと注意点、開業前に取るべき具体的な対策を解説します。

クリニック開業においての「失敗」とは?

クリニックの開業における「失敗」というと、倒産や廃業を思い浮かべる先生が多いかもしれません。

帝国データバンクの調査によると、2025年の医療機関の倒産・休廃業・解散は合計823件で過去最多を更新しました。

そのうち「診療所」が661件、「歯科医院」が147件で、「診療所」と「歯科医院」が過去最多を更新しました。

しかし、倒産・廃業の数字に表れないギリギリの例も存在します。診療を続けていても、次のような状態に陥っているケースも少なくありません。

  • 休診日に非常勤アルバイトをかけ持ちして借入返済を続けている
  • 銀行との返済条件を変更してようやく経営を維持している
  • 人員不足により予約制限や休診日を増やして対応している
  • 院長の体調不良により休診が続き、患者離れが進む
  • 院長に業務が集中し、診療以外が回らない
  • 患者の待ち時間が長くなり、クレームや離脱が増える

「開業さえできれば安心」と考えているとしたら、見直しが必要かもしれません。

出典:帝国データバンク「医療機関の倒産・休廃業解散動向調査(2025年)

クリニック開業初年度に多い失敗例と対策

開業初年度に陥りやすい失敗パターンを、6つに絞って解説します。

パターン① 開業費・運転資金の計画ミス

「せっかくの開業だから」と設備や内装にこだわりすぎると、借入額が膨らみ、開業直後から返済負担が重くなります。

さらに見落とされがちなのが、保険診療の入金タイミングです。

診療報酬は2〜3ヶ月後に入金されるため、開業直後は資金が手元にない状態が続きます。

典型的なつまずき方
  • 設備・内装に費用をかけすぎて借入額が過大になる
  • 診療報酬の入金遅れを考慮せず資金計画を組んでしまう
  • 固定費(人件費・家賃・リース料)の支払いが先行する
  • 売上はあるのに現金が足りず、資金繰りが悪化する

この結果、黒字でも資金が回らず、いわゆる資金ショートに陥るケースがあります。

対策① 運転資金は固定費数ヶ月分を確保する

家賃・人件費・リース料などの固定費を洗い出し、一般的に3〜6ヶ月分を目安として運転資金を確保した上で融資計画を組みます。

診療科や立地によってはそれ以上必要になるケースもあるため、開業前に税理士とともに試算しておくことが重要です。

対策② 設備投資は必要最低限に絞る

開業時に必要な医療機器は「その診療科で最低限必要なもの」に絞るのが基本です。

「最新機器を揃えれば患者が集まる」という考えは危険で、稼働率が低ければ維持費だけがかさみます。

機器の選定は内装設計と連動するため開業前に決定が必要ですが、導入する機器の数・グレードを絞ることで初期投資を抑えることができます。

対策③ リースと購入を事前にシミュレーションする

医療機器は、購入かリースかの選択が資金計画に大きく影響します。

購入は総コストを抑えられる一方、初期費用が大きくなります。リースは月々の支払いを平準化できますが、総支払額は購入より高くなります。

どちらが有利かは診療科・機器の種類・資金状況によって異なるため、開業前にシミュレーションしておくことが重要です。

☆内部リンク→医療機器・リース・購入記事

パターン② 立地・診療圏調査の失敗

立地は開業後に変更できないため、場所選びのミスはそのまま経営に影響します。

人通りの多さと来院患者数は比例せず、診療科目やターゲットによって、適切な立地条件は異なります。

典型的なつまずき方
  • 人通りの多さだけで立地を判断してしまう
  • ターゲット患者層とエリア特性が合っていない
  • 診療圏データをそのまま鵜呑みにしている
  • 競合クリニックの影響を十分に見ていない

なお、神奈川県や相模原市のように医療機関数が多いエリアでは競争が激しく、同一診療科のクリニックが近接しているケースもあります。

診療圏データ上は成立していても、実際には集患に苦戦することがあります。

対策① 複数の視点で商圏を検証する

人口動態・競合状況・昼夜間人口の差・駐車場の有無・診療科別の診療圏の広さなど、複数の視点で立地を検証します。

単一のデータや「感覚」だけで判断せず、定量的な根拠を積み上げることが重要です。

☆内部リンク 詳しい調査手法は【立地・診療圏記事】をご参照ください。

対策② 必ず現地調査を行う

データだけでは見えない情報があります。

実際に候補地に足を運び、診療時間帯の人の流れ・駐車場の実態・近隣クリニックの混み具合・患者層を自分の目で確認することが重要です。

平日・休日・朝夕の時間帯を変えて複数回訪問するとより実態に近い情報が得られます。

対策③ 診療圏データの限界を理解した上で判断する

診療圏調査のデータはあくまでも参考情報です。

国勢調査ベースのデータは最大5年前の情報であり、近年の人口移動や競合クリニックの開業状況は反映されていません。

データを過信せず「データが示す可能性」として捉え、現地調査や専門家の知見と組み合わせて最終判断を下すことが重要です。

パターン③ 集患・Web施策の不足

勤務医時代と違い、集患の仕組みを作らないと、新患は伸びません。

近年は、患者がクリニックを探す際にネット検索を使うのが一般的です。

ホームページやGoogleビジネスプロフィールを整備していない場合、検索結果に表示されず、存在自体に気づかれません。

典型的なつまずき方
  • ホームページを開業後に作り始め、公開までに時間がかかる
  • Googleビジネスプロフィールを整備しておらず検索に出ない
  • 開業直後の集患はあるが、その後の流入が続かない
  • リピーター確保と新患獲得の両立ができていない

特に「ホームページを開業後に作り始めた結果、検索に表示されるまで数ヶ月かかり、その間に新患が伸びない」というケースは多く見られます。

また、開業3ヶ月前後で新患の流入が鈍化するケースもあり、継続的に患者を獲得する仕組みがないと頭打ちになります。

さらに、医療機関の広告には規制があり、以下のような表現は禁止されています。

  • 患者の体験談・口コミの掲載
  • ビフォーアフター写真の使用
  • 「日本一」「完全治癒」などの誇大表現

規制の範囲内で情報発信を行う必要があります。

対策① 開業前にWeb環境を整備する

ホームページ制作は医療機関向けのWeb制作会社に依頼するケースが多く、制作には一定の期間がかかります。

開業の3〜6ヶ月前には動き出すことが必要です。

診療時間・アクセス・診療科目・院長プロフィールなど、患者が知りたい基本情報を掲載します。

対策② 開業1〜2ヶ月前から告知を動かす

内覧会の開催・地域へのチラシ配布・近隣への挨拶回りは、開業の1〜2ヶ月前から動き出すのが基本です。

開業日当日に告知を始めても、地域への認知が広がるまでに時間がかかります。

開業前から地域住民にクリニックの存在を知ってもらう準備が、開業直後の集患に直結します。

対策③ 開業後も情報発信を継続する

開業後にホームページの更新が止まっていると、患者から「このクリニックはまだやっているのか」という不信感を持たれます。

院長自身が更新する場合もありますが、診療の傍らで継続するのは負担が大きいため、Web制作会社やスタッフに運用を任せる体制を開業前に整えておくことが現実的です。

情報更新の例としては、季節ごとの診療案内・休診情報・健康に関するコラムなどが挙げられます。

口コミへの返信も、集患効果が期待できます。

パターン④ スタッフ採用・定着の失敗

スタッフの接遇や対応の質は口コミに直結し、評価が下がると新患獲得にも影響します。

特に開業初期は、スタッフの離職が重なることで診療体制が崩れるケースも見られます。

典型的なつまずき方
  • オープニングスタッフが短期間で複数人退職する
  • スタッフ対応への不満から口コミ評価が下がる
  • 採用と退職を繰り返し、現場が安定しない

早期離職の原因は、職場環境や給料だけにあるとは限りません。

経営のプレッシャーから院長の対応が厳しくなり、それがスタッフの離職につながるケースも見られます。

また、個人開業では就業規則や労務管理の整備が後手になりやすく、労働トラブルが発生すると開業初年度の経営に大きな影響が出ます。

対策① 採用基準に人柄・患者対応を加える

採用時は医療知識やスキルだけでなく、患者対応・コミュニケーション能力を採用基準に明確に加えることが重要です。

面接では実際の患者対応を想定したロールプレイや、過去の接客・対人業務の経験を確認するなど、人柄を見極める工夫をします。

開業初期のスタッフはそのままクリニックの文化を形成するため、最初の採用が特に重要です。

対策② 開業前に雇用契約書・就業規則を整備する

就業規則は常時10人以上の労働者を雇用する場合に作成義務が生じますが、小規模クリニックであっても整備しておくことでトラブルを未然に防げます。

給与・勤務時間・休日・有給休暇などの労働条件を雇用契約書に明記し、開業前に社会保険労務士に確認を依頼しておくことが安全です。

対策③ 定期面談でスタッフの不満を早期に把握する

月1回程度の短時間面談を設けることで、スタッフの不満が蓄積する前に把握し対処できます。

院長との距離が近い個人クリニックだからこそ、コミュニケーションを意識的に設計することが定着率の向上につながります。

対策④ 院長自身の言動がクリニックの雰囲気を決めると認識する

経営がうまくいかない時期に焦りやストレスをスタッフにぶつけてしまうと、離職が連鎖し診療体制が崩れます。

給与や制度を整えることと同時に、院長自身の言動がクリニックの文化をつくるという認識を持って開業に臨むことが重要です。

パターン⑤ 税務への備え不足

勤務医時代は源泉徴収で税金が完結していたため、税負担をほとんど意識せずに済んでいた先生が多いと思います。

しかし個人開業医になると、次の税負担がご自身に課されます。

  • 所得税(累進課税。所得が増えるほど税率が上がる)
  • 住民税(翌年6月から前年所得に対して課税)
  • 個人事業税(医業は5%)
  • 国民健康保険料(前年所得に連動して増加)

これらは開業翌年に一気に請求されるため、開業初年度に利益が出たものの、翌年の税金支払い資金を確保しておらず、資金繰りが急激に悪化するケースがあります。

また、個人開業には提出期限が定められた届出があり、開業準備の忙しさで見落としやすい落とし穴になっています。

対策① 届出スケジュールを税理士と確認する

開業届は開業日から1ヶ月以内、青色申告承認申請書は「その年の3月15日まで、または開業日から2ヶ月以内のいずれか遅い日」が期限です。

どちらも期限を逃すと取り返しがつかないため、開業前に税理士と提出スケジュールを確認し、開業準備の工程表に組み込んでおくことが重要です。

対策② 翌年の税負担を開業前にシミュレーションする

個人開業初年度に売上が順調に伸びた場合、翌年の所得税・住民税・国民健康保険料が一気に増加します。

翌年の税負担額を試算し、納税資金をあらかじめ確保しておくことで、資金ショートを防げます。

対策③ 青色申告の要件を開業時から整備する

青色申告を適用すると、損失の繰越や最大65万円の特別控除(ただし、複式簿記・e-Tax申告・電子帳簿保存が必要)を受けられます。

税理士に依頼する場合でも、これらの要件を満たしていないと控除額が減額される可能性があります。開業前に対応方針を確認しておくことが重要です。

パターン⑥ 経営数値の管理不足

資金の動きを把握していないと、「売上は上がっているのに手元にお金がない」状態に陥ることがあります。

売上と手元現金は別物で、リース料・借入返済・税金の支払いが重なると、黒字でも資金繰りが悪化します。

典型的なつまずき方
  • 月次試算表を確認せず、決算時に初めて数値を把握する
  • 預金残高だけで判断し、将来の支払いを見込んでいない
  • 借入返済や税金の支払いタイミングを管理していない
  • 節税目的の支出で手元資金を減らしてしまう

個人開業医は診療と並行して経営管理も担う必要がありますが、忙しさから数値の把握が後回しになりがちです。

対策① 月次試算表を毎月確認する

税理士に記帳・申告を任せること自体は問題ありません。

しかし月次試算表を確認せず、決算時に初めて経営状況を把握するのでは手遅れになるケースがあります。

毎月試算表を確認し、売上・費用・利益の推移を把握することで、問題が深刻化する前に対処できます。

対策② 節税と資金繰りのバランスを定期確認する

節税対策として設備投資や経費計上を行う場合、手元現金が減ることを忘れてはなりません。

「節税できた=手元にお金が残る」ではなく、資金繰りへの影響を同時に確認することが重要です。

税理士と定期的に面談し、節税と資金繰りのバランスを確認する機会を設けておきましょう。

開業前に知っておくべき、失敗するクリニックの共通点

ここまで見てきた失敗パターンを整理すると、開業初年度につまずくクリニックには共通した傾向があります。開業前に確認しておきましょう。

勤務医マインドから抜け出せていない

「良い医療を提供すれば患者は来る」「経営は誰かが回すもの」という感覚のまま開業するケースが見られます。

開業後は集患・採用・資金管理を院長自身が担う必要がありますが、この認識がないまま開業すると、資金繰りや集患で苦戦します。

他責思考になっている

経営がうまくいかないとき、「立地が悪かった」「スタッフに恵まれなかった」と外部に原因を求めてしまうケースがあります。

立地や採用も含めて最終判断は院長にあります。原因を外部に求め続けると、同じ判断ミスを繰り返しやすくなります。

組織を動かす視点が乏しい

「自分が診療に専念できればいい」という感覚のまま開業すると、役割分担が曖昧になり、診療と経営が両立できなくなる場合があります。

院長が「業務全体を管理する立場である」という認識がない場合、全体が回らなくなるリスクが高まります。

失敗パターンを知ることが、クリニック開業成功への第一歩

開業の失敗は、医師としての実力とは別の次元で起きます。

資金計画・集患・スタッフ・税務、これらは勤務医時代にほとんど経験しない領域だからこそ、準備なしに開業すると初年度から複数の問題が重なり、対応が後手に回ります。

開業前にリスクを把握し、専門家とともに対策を講じておくことが、初年度を乗り越える最大の備えになります。

こちらの記事でも、それぞれを詳しく解説しています。

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この記事の執筆者
澤奈緒子(さわなおこ)
澤奈緒子(さわなおこ)
ライター・編集者
宅地建物取引士、2級FP技能士。不動産会社での実務経験を経て、10年以上にわたり専門記事の企画・執筆・編集に携わっています。会計や税務といった複雑なテーマを紐解き、実務の視点から、経営者の皆さまに役立つ情報を分かりやすく解説しています。

記事の監修

八木会計事務所
八木会計事務所
税理士法人 八木会計
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相模原市・橋本駅近くの[税理士法人 八木会計]です。
地域密着のパートナーとして、相模原市内外の医療機関・福祉施設の経営を専門的にサポート

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新会計基準に完全対応できる専門スタッフが経営を支援します。
「社会福祉簿記上級」保持者が多数在籍しており、複雑な会計実務から指導監査対策まで、相模原の地域福祉を支える法人様を万全の体制でバックアップします。

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