【届出】保健所・厚生局への開設届と施設基準|保険医療機関指定申請の手順

澤奈央子

内装工事が終わり、スタッフも決まった。あとは開業するだけ——そう思っている医師ほど、開業手続きで足をすくわれます。

届出には決まった流れがあり、施設基準の確認も設計段階から必要です。対応が遅れると、保険診療の開始が1ヶ月単位で遅れることになります。

本記事では、保健所への開設届から厚生局への指定申請までの流れを解説します。

※本記事は個人開業における無床診療所を前提としています。

クリニック開業の届出・申請の全体像

開業準備が進むにつれ、手続きが次々と発生します。スムーズに進めるために、全体像を掴んでおきましょう。

届出先は保健所・厚生局の2機関

クリニック開業に関わる主な届出先は2機関です。

なかでも保健所への開設届と厚生局への保険医療機関指定申請は、順番と締切を間違えると保険診療の開始が遅れる重要な手続きです。

  1. 保健所:診療所開設届の提出・現地確認
  2. 厚生局:保険医療機関指定申請

このほか、

  • 税務署に個人事業の開業届・青色申告承認申請書を提出
  • 従業員を雇う場合は年金事務所・労働基準監督署・ハローワーク
  • 診療科によっては消防署への届出や麻薬施用者免許の申請

が別途必要になります。

開業日から逆算して届出スケジュールを組む

保険医療機関として診療報酬を請求するには、厚生局への指定申請が必要です。

この申請には毎月締切があり、目標の開業日から逆算してスケジュールを組む必要があります。

たとえば、関東信越厚生局神奈川事務所では、令和8年7月1日指定を受ける場合、令和8年6月10日(水)が保険医療機関・保険薬局の新規申請の締切日とされています。

指定を受けたい月の直前に申請すればよいわけではないため、開設届の提出や副本の取得、厚生局への指定申請にかかる期間を見込み、開業日から逆算して準備を進める必要があります。

以下は神奈川県の個人開業(無床診療所)の例です。

タイミング手順
5〜4か月前保健所へ事前相談・図面確認(工事着工前)
4〜2か月前内装工事
工事完了後(2〜1か月前)開設日を設定し、開設後10日以内に開設届を提出
副本取得後すみやか関東信越厚生局神奈川事務所へ指定申請
指定月の1日保険診療開始

※実際のスケジュールは管轄の保健所・厚生局への確認が必要です。

開業までの全体像を知りたい方はこちらの記事を参考にしてください。

あわせて読みたい
【まとめ】ゼロから始めるクリニック開業ロードマップ|資金調達・物件選定・届出の全手順
【まとめ】ゼロから始めるクリニック開業ロードマップ|資金調達・物件選定・届出の全手順

保健所への診療所開設届|事前相談から現地確認までの流れ

保健所への届出は、おおむね開業の5〜4か月前から始まります。

着工前の図面相談→開設届の提出→現地確認という流れで進みます。

①着工前に図面を持って保健所へ相談

着工前の事前相談で確認しておくべき主な内容は以下のとおりです。

施設基準の確認

診療所の構造設備は医療法施行規則で基準が定められており、保健所は工事完了後の現地確認でこれをチェックします。

施設基準を満たさない設計のまま工事を進めると、現地確認で修正工事を指示され、開業が大幅に遅れることになります。

クリニック名の確認

近隣に類似名称がある場合や、医療法に抵触する名称は変更を求められることがあります。

看板やチラシを印刷した後に発覚すると損失が大きくなるため、設計と並行して確認しておくのが賢明です。

診察室・待合室の面積

法令上に数値基準は明記されていません。

一部自治体の指導基準では診察室9.9㎡以上・待合室3.3㎡以上が目安として公示されていますが、管轄保健所によって異なります。

例えば相模原市の場合、工事着工前に図面を持参して地域保健課・医事薬事班へ事前相談することが求められています。

出典:相模原市「診療所開設の手引き」

②管轄の保健所へ開設届の提出

施設設備等が整い診療を開始できる状態になったら、開設日から10日以内に管轄の保健所へ開設届を提出します。

提出は正本・副本の2部で、副本に受付印を押して返却されます。

この副本は厚生局への保険医療機関指定申請に必要になるため、受け取ったら大切に保管しておきましょう。

提出書類一式は自治体によって異なるため、事前相談の際に確認してください。

提出書類の例
  • 診療所開設届
  • 開設管理者の医師免許証(原本+写し)
  • 臨床研修修了登録証の写し(平成16年4月以降取得者)
  • 管理者の履歴書・医師勤務表
  • 診療に従事する医師・薬剤師・助産師等の免許証の写し
  • 土地・建物の登記事項証明書
  • 賃貸借契約書の写し(賃借の場合)
  • 敷地周囲の見取図・敷地平面図・建物平面図
  • エックス線装置を設置する場合:放射線防護図

③開業日までに院内掲示

開業日までに、診療所内の見やすい場所に以下の3項目を掲示する必要があります。

①管理者の氏名
②診療に従事する医師・歯科医師の氏名
③医師・歯科医師の診療日および診療時間

保険医療機関ではこの3項目に加え、療養担当規則に基づく掲示義務が別途発生します。

明細書の発行状況や保険外負担に関する事項などが該当します。

また、自ら管理するウェブサイトを持つ保険医療機関は、2025年6月1日から院内掲示事項をウェブサイトにも掲載することが義務となっています。

開業時にホームページを制作する場合は、掲載が必要な項目を制作会社と事前にすり合わせておくとスムーズです。

出典:全国保険医団体連合会

④保健所の現地確認

開設届を提出した後、保健所の担当者が現地確認に訪れます。

主なチェック項目は以下のとおりです。

  • 平面図どおりに内装が完成しているか
  • 各室に室名札が掲示されているか
  • 水道・消防設備が整っているか

現地確認には開設者または管理者の立会いが求められます。

当日慌てないよう、事前に自治体の手引きや保健所からの案内をもとに確認項目を整理しておくと安心です。

厚生局への保険医療機関指定申請|準備から保険診療開始までの流れ

開設届を提出し副本を受け取ったら、次は厚生局への保険医療機関指定申請です。

この申請が完了して初めて保険診療を始められます。

締切を一度逃すと1ヶ月単位で開業が遅れるため、スケジュール管理が特に重要な手続きです。

①開業地を管轄する地方厚生局で指定申請を行う

保険医療機関の指定申請は、開業地を管轄する地方厚生局で行います。

なお、保険診療を行う医師は「保険医」として厚生局に登録されている必要があります。

多くの場合は勤務医時代に登録済みですが、未登録の場合は指定申請と同時に保険医登録の申請も必要です。

申請にあたっては、保健所で受付印を押してもらった開設届の副本が必須です。

副本がなければ申請を受け付けてもらえないため、開設届の提出後に副本が手元に揃ったことを確認してから動くことになります。

主な添付書類
  • 保険医療機関指定申請書
  • 診療所開設届の副本(受付印入り)
  • 保険医の氏名・保険医登録番号・担当診療科を記載した書類
  • 医師等の数を記載した書類
  • 社会保険等の加入状況確認票
  • オンライン資格確認の導入計画書または猶予届出書 ほか

オンライン資格確認とは、マイナンバーカードや資格確認書を用いて患者の保険資格をオンラインで確認する仕組みです。

導入には事前の設備準備が必要なため、開業準備の早い段階から対応しておくことが重要です。

出典:関東信越厚生局「保険医療機関・保険薬局の指定申請手続きの流れ及び添付書類等

②開業月の前月締切日までに申請書を提出する

指定は原則毎月1日付で行われます。

締切日は管轄の厚生局事務所ごとに異なるため、開業数か月前から確認しておくことが重要です。

「〇月1日から保険診療を開始したい」という目標が決まったら、前月の締切日までに申請書を提出できるよう、開設届の提出タイミングと合わせて逆算してスケジュールを組むことになります。

③指定通知書が届いたら医療機関コードを設定する

申請が受理されると、厚生局から医療機関コードが記載された指定通知書が届きます。

この医療機関コードを電子カルテ等に設定し、国民健康保険連合会(国保連)と診療報酬支払基金へのオンライン請求を開始する流れになります。

指定通知書は再発行の手続きが必要になるため、大切に保管しておきたい書類です。

開業時に必要な届出・申請一覧

保健所への開設届と厚生局への指定申請に意識が集中しがちですが、開業時には他にも複数の届出が必要です。

それぞれ期限が異なるため、早い段階で全体を把握しておくことが重要です。

届出先内容期限
保健所診療所開設届開設後10日以内
厚生局保険医療機関指定申請毎月締切日まで(要確認)
消防署消防用設備に関する届出(管轄消防署に確認)工事前・工事中・完了後
税務署個人事業の開業・廃業等届出書開業した年分の確定申告期限まで
税務署青色申告承認申請書原則3月15日まで
※1月16日以後に開業した場合は、開業日から2か月以内
都道府県税事務所個人事業税の事業開始等申告書都道府県による
年金事務所社会保険加入(従業員5人以上の場合)事実発生後すみやかに
労働基準監督署・ハローワーク労働保険(従業員を雇う場合)事実発生後すみやかに
保健所エックス線装置設置届(設置する場合)設置後10日以内
保健所麻薬施用者免許申請(麻薬を使用する場合)事前申請

行政手続きに追われる中で税務関係の届出が後回しになるケースは少なくありません。

特に青色申告承認申請書は開業後2ヶ月以内という期限があり、これを過ぎるとその年の青色申告特別控除が受けられなくなります。

開業準備の早い段階で税理士に相談しておくと、こうした届出漏れを防ぎやすくなります。

クリニック開業の届出・申請でよくある失敗と対策

ここでは開業手続きで実際に起きやすい失敗と、あらかじめ押さえておきたい対策をまとめます。

施設基準の確認不足で修正工事が発生し開業が遅れる

着工前の図面相談を省略したまま工事を進め、現地確認で修正を指示されるケースがあります。

壁の撤去・追加など大がかりな工事になれば、開業日を数週間〜1か月以上先送りせざるを得ません。その間も家賃・人件費は発生します。

事前相談で防げるトラブルであるだけに、設計会社任せにせず開設者自身が保健所へ足を運んでおくことが重要です。

クリニック名には医療法上の制限がある

クリニック(診療所)は、医療法第3条の規定により「病院」「産院」など病院と紛らわしい名称を使用することができません。

「病院」と名乗れるのは入院ベッドが20床以上の医療機関に限られるためです。

また、医療広告ガイドラインに反する名称も避ける必要があります。

届出時に保健所から名称について指導を受けることがあるため、事前相談の際に確認しておくと安心です。

開設日と届出・指定申請の手順とタイミングに注意する

開設届は「開設後10日以内」の提出義務ですが、厚生局への指定申請は「開設済み」が前提です。

開設日の設定がずれると、保険診療開始日が想定より大幅に遅れることになります。

開設日・開設届提出日・厚生局申請締切日の3点を、事前に逆算し設定しておくことが重要です。

追加の届出・申請は開業準備の初期に洗い出す

開設届や保険医療機関指定申請以外にも、設備や診療内容によって追加の届出・申請が必要になるケースがあります。

開業直前に気づいても間に合わないことがあるため、準備の初期段階で洗い出しておくことが重要です。

追加の届出は診療科ではなく、導入する設備や実施する医療行為によって決まります。

届出例
  • エックス線装置を設置する場合:診療用エックス線装置備付届(保健所)
  • 麻薬を処方する場合:麻薬施用者免許(都道府県)
  • 在宅医療を行う場合:在宅療養支援診療所の施設基準届(厚生局)
  • リハビリを算定する場合:各リハビリテーション料の施設基準届(厚生局)
  • 精神通院医療を行う場合:指定自立支援医療機関(精神通院医療)申請(都道府県)

神奈川・相模原でクリニックを開業する場合の届出窓口

ここでは神奈川県を例に、実際の届出窓口を示します。

他の地域でも窓口の確認方法は同様で、開業地の市区町村または都道府県の保健福祉担当課に問い合わせるのが基本です。

届出窓口は開業する市区によって異なる

神奈川県内で開設届を提出する窓口は、開業地によって異なります。

横浜市・川崎市・相模原市・横須賀市・藤沢市・茅ヶ崎市は各市の担当窓口が対応しており、これら以外の神奈川県域は各保健福祉事務所が窓口となります。

例えば相模原市内に開業する場合は、相模原市保健所(地域保健課・医事薬事班)が窓口です。

保険医療機関指定申請は関東信越厚生局神奈川事務所へ

神奈川県全域の保険医療機関指定申請の窓口は、関東信越厚生局神奈川事務所です。

締切日はウェブページ上で随時更新されるため、開業数か月前から定期的に確認しておくことが重要です。

参考:関東信越厚生局神奈川事務所

税務署への届出は納税地を管轄する税務署へ

開業届は開業した年分の確定申告期限まで、青色申告承認申請書は原則3月15日までが提出期限です。

ただし、1月16日以後に開業した場合、青色申告承認申請書は開業日から2か月以内に提出する必要があります。

期限漏れを防ぐため、青色申告承認申請書を提出するタイミングで、開業届も一緒に提出しておくと安心です。

まとめ|クリニック開業の届出・申請でスムーズな保険診療開始を実現する

届出・申請の手続きは、準備の順序と締切管理がすべてです。

資金計画や集患の準備と並行して、自院の診療内容に応じた手続きリストを早期に作成しておくことで、開業日から保険診療をスムーズに開始できます。

届出スケジュールの確認や手続きの洗い出しについては、開業に精通した税理士への相談をお勧めします。

こちらの記事でも、それぞれを詳しく解説しています。

「結局、自分の場合はどうすればいい?」と迷っていませんか?

最後までお読みいただきありがとうございます。 記事では一般的な正解はお伝えしましたが、税務や経営の最適解は、売上規模、業種、そして経営者様が描くビジョンによって千差万別です。

  • 「この記事の内容を、自社に当てはめるとどうなるのか?」
  • 「今の顧問税理士には聞きにくいことがある」
  • 「もっと効率的な節税や資金繰りの方法がある気がする」

そんな漠然とした不安を、「確信」に変えるお手伝いをさせてください。

八木会計事務所では、日々多くの経営者様から寄せられる課題に向き合っています。

どんなに些細な疑問でも構いません。

まずは専門家の視点を取り入れて、悩みやモヤモヤを解決してみませんか?

問い合わせフォームへ移動します
この記事の執筆者
澤奈緒子(さわなおこ)
澤奈緒子(さわなおこ)
ライター・編集者
宅地建物取引士、2級FP技能士。不動産会社での実務経験を経て、10年以上にわたり専門記事の企画・執筆・編集に携わっています。会計や税務といった複雑なテーマを紐解き、実務の視点から、経営者の皆さまに役立つ情報を分かりやすく解説しています。

記事の監修

八木会計事務所
八木会計事務所
税理士法人 八木会計
Profile
相模原市・橋本駅近くの[税理士法人 八木会計]です。
地域密着のパートナーとして、相模原市内外の医療機関・福祉施設の経営を専門的にサポート

◆社会福祉法人に強い税理士をお探しの方◆
新会計基準に完全対応できる専門スタッフが経営を支援します。
「社会福祉簿記上級」保持者が多数在籍しており、複雑な会計実務から指導監査対策まで、相模原の地域福祉を支える法人様を万全の体制でバックアップします。

◆医療・クリニック・歯科に強い税理士をお探しの方◆
「医業経営コンサルタント」の有資格者が、相模原での新規開業から経営改善、事業承継までトータルで支援します。
全国規模の医業経営支援グループ「MMPG」の最新データを活用し、地域包括ケアシステムを見据えた健全な病医院経営を形にします。
プロフィールを読む
記事URLをコピーしました